音楽と社会フォーラムのブログ

政治経済学・経済史学会の常設専門部会「音楽と社会フォーラム」の公式ブログです。

ちょっとしたメタル話 番外編 ちょっとしたコンサート話 その2 長い長い旅

 いよいよGW、いろいろとご予定があるかと思います。そんな今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

 今回は「メタル話」番外編として、ちょっとしたコンサート話(参加記)その2 をお届けします。2014年10月のボストン(BOSTON)の武道館公演以来、2回目となります。フィクションが多少含まれておりますが、お気軽にお付き合いいただければ幸いです。


********************************


 2017年2月7日。この日は、ある中年男にとって、忙しい仕事の合間のつかの間の休日でした。ロックの神様が、彼に微笑んでくれたのでしょうか。この日は、日本武道館において世界初の試みが行われる日だったのです!



 この日、武道館でライブを行うのは、アメリカンロックの代表格といえるバンド、ジャーニー(JOURNEY)です。ジャーニーは、1973年にサンフランシスコで結成された5人組のバンドで、これまで14枚ものオリジナルアルバムを発表し、ベストアルバムも含め、数々のプラチナ・ディスクやゴールド・ディスクを獲得しています。本国アメリカではもちろん、日本でも非常に人気の高いバンドです。

 中年男とジャーニーの出会いは、彼が小学生のときであり、その後発表された名曲“Separate Ways”で一気にに夢中になったことを覚えています。同曲は、先日行われた野球の世界大会、WBCの放送の際にも使用されました。さらに、そのプロモーションビデオは、現在までにおそらく最も多くの(パロディ)“カバー”を生み出した「傑作」です(ぜひ見ていただきたく思います!)。他にも彼らの曲は、某有名アーティストにカバーされたり、日本においてCMで多く用いられるなどしております。こうした点から明らかなように、ジャーニーが時代を超えた人気、そして実力を誇るバンドであることは疑いありません。来日も1970年代から通算10回を数えます。それゆえ、ここでジャーニーについて詳しく説明することは不要でしょう。

 そんなジャーニーのライブにおける、“世界初の試み”とは何なのか。なんと、彼らの全盛期のアルバム2枚を完全に再現するライブが行われるというのです!

 その2枚とは、もちろん、いわずと知れた「Escape」(1981)、「Frontiers」(1983)です!。前者は、全米第一位を獲得し、これまでに900万枚以上売り上げており、ジャーニーの最高傑作、名曲の宝庫といえるアルバムです。後者は、「Escape」の作風を受け継ぎながらハードな音作りがなされており、全米第二位を獲得、600万枚以上売り上げております(“Separate Ways”収録)。男は、この2作をそれこそ擦り切れるほど聴いてきました。それゆえ、この世界初の2作品再現ライブの報を聞いたとき、予定など確認せずにすぐにチケットを入手したのです。

 再現ライブにおける男の期待、楽しみは以下のようなものでした。
 ① 自分がレコードおよびカセットテープで聴いていた順番どおりに名曲を聴くことができる。
 ② 両作品の(レコードの)B面の半ばあたりに収録されている、普段ライブでは演奏されることが少ない、あるいはこれまでほとんど演奏されたことのない曲が、確実に聴ける!
 ③ ②と関連しますが、とくに大好きな楽曲である、「Escape」のB面に収められた“Lay It Down”を生で聴くことができる! この曲は、上記2作の時点(ほとんどの曲作りに参加しています!)のヴォーカル、スティーヴ・ペリー(Steve Perry)の超ハイトーンvoが冴え渡る、ジャーニー史上でも屈指の音域を誇るナンバーです!
 ④ … と、この辺でやめておきますが、とにかく楽しみで仕方がありませんでした。



 ボストンのときと異なり、アリーナのほぼ最後列に陣取った中年男ですが、チケットを入手したころと比べると、いささか高揚感が薄れていることに気づきました。理由を考える間もなくライブがスタート。オープニングは、当然ではありますが、あのピアノのイントロ、アメリカでも極めて評価の高い名曲“Don't Stop Believin'”です!(映画等さまざまな“場面”でよく使われています!) 中盤以降激しくなる展開に、会場は手拍子で応えます。泣きのギターソロの後は、当然のごとく大合唱です! やはり「信じることをやめてはいけない」と強く感じました(涙)。

 初めて生でみた、フィリピン出身のヴォーカル、アーネル・ピネダ (Arnel Pineda)は、噂どおり、確かに過去のアルバムの曲を再現できる実力の持ち主です(そして、“彼”に“似て”います)。他の4人が全員、上記の全盛期のアルバムの際のメンバーであり、皆60歳前後であるなか、彼は中年男より少し年上という年齢です。重厚な布陣、演奏のなかで、とにかく元気いっぱいに動き回ります。男は、名ヴォーカリストスティーヴ・ペリーの大ファンでしたので、自分の中のジャーニーのイメージが崩れないか、少し心配していたのですが、アーネルのパフォーマンスに感心いたしました。ただ、アルバムの曲が進むにつれ、何故か些か冷静にステージを見ている自分を認めざるをえませんでした。


 そうしたなか、大好きなバラード“Still They Ride”、名曲といっていいでしょう、会場も大いに盛り上がったハードナンバー“Escape”と続き、いよいよお楽しみの“Lay It Down”です! アーネルは果たして再現できるのか。いかにして歌い上げるのか。固唾を呑んでそのときを待ちした。だが、なんと、彼はステージの袖へと姿を消していきます。? そして、ドラムスの横にいて、ほとんどスポットライトがあたっていなかったキーボードを担当するサポートメンバー、トラヴィス・ティボドー(Travis Thibodaux)が、おもむろに“Lay It Down”を歌いだしたのです。「えっ⁉」。思わず口走ってしまいました。これを楽しみにしていたのに…しかし、トラヴィスがうまい! 確かに“似て”はいませんが、すばらしいハイトーンでした! ただ、少し拍子抜けしたことは事実です…。結局“謎の男”トラヴィスは、シングルカットされた“After The Fall”を含め3曲でリード・ヴォーカルを務めました。



 その後大合唱の“Open Arms”、地響きを起こすかのような“Separate Ways”で盛り上がり、“Chain Reaction”のかっこよさにしびれ、“Faithfully”で涙しました。楽曲のすばらしさをあらためて感じつつ、時は流れていきます。ただ、やはり「Frontiers」のB面半ばの曲は、知名度が低く(あまり演奏されたことがない曲が多いです)、ライブ終盤はいまひとつ盛り上がりに欠けたことは否めません(ラストの“Rubicon”は盛り上がりましたが)。アンコール1曲目で演奏された“La Raza del Sol”も、かつてシングルのB面に収録されていた、あまり知られていないナンバーで、戸惑っているお客さんも見受けられました(来日にあわせて発売された「Escape-35周年記念デラックス・エディション」には収録されています。ということは…)。スティーブ・スミス(Steve Smith)のドラムスを筆頭に、演奏が凄まじかったことは疑いありませんが。



 ライブの後とは思えないほど、静かに帰路についた中年男は、今回の再現ライブにおける自分自身を振り返りました。すばらしい演奏とすばらしい楽曲を目の当たりにしたにもかかわらず、些か冷静になっていた理由は何か。「オープニングは何か」「次はどんな曲でくるか」「こうきたか!」「この曲待っていた!」「こういう曲順か」。おそらく、こうした普段のライブにおける男にとっての楽しみ、「感覚」を、再現ライブでは味わえないことが理由のひとつではないでしょうか。

 男は中学生・高校生の頃(から)、好きなアーティストのベスト盤の選曲・曲順を考えること、コンサートにおける(自分にとっての)最高のセットリストを考えることを趣味にしていました。金銭的余裕がなく、レコードやCDをたくさん買うことができず、ましてやライブに足を運ぶことなど数えるほどしかなかった学生時代、曲順を考え「こうしたらより盛り上がるのではないか」と想像することが、とても楽しかったのです。未知なるものと触れる、あるいは触れる前の「ワクワク感」。これらは、当然ですが、曲順を変更できない再現ライブでは味わうことができないものです。男は、今回の再現ライブで、ライブにおいて自分が何を楽しみにしているのか、何を楽しんでいるのか、確認できた気がしました。


 上記のような「確認」を経て、男はアルバムの再現ではないジャーニーのライブをどうしても見たくなりました。しかし、今回の<JOURNEY JAPAN TOUR 2017>は、この再現ライブが最終公演でした…。某所で大阪、名古屋、仙台、そして前日の武道館でのライブのセットリストをみてみると…“Be Good To Yourself”…“ Any Way You Want It ”…“Lights”…“Wheel In The Sky”…“Ask The Lonely ”(!)…見たかったです…。

 男の長い長い“旅”は、まだまだ続きそうです。



無料で配布された携帯用カイロです………こうしたものが作られるなんて、ジャーニーの人気は凄いですね!







追伸:ライブ直後、発表順は逆になりますが,「Frontiers」、「Escape」という順番だったらどうか、ということも考えました。上記のように、前者は、B面半ばに比較的知られていない曲が多く、ライブ終盤の盛り上がりがいまひとつになりましたので。この順番なら、オープニングは他の公演でもそれに選ばれた“Separate Ways”ですし、中盤の“Don't Stop Believin'”で盛り上がること疑いなし。そして、“Open Arms”で締めるのですから、なかなかではないでしょうか……。やはり、曲順、セットリストを考えるのって楽しいですね。若い頃を思い出した中年男でした。数多くの魅力的な楽曲を生み出し、2017年にいたり日本でそれらを披露してくれたジャーニーに、あらためて感謝です。