音楽と社会フォーラムのブログ

政治経済学・経済史学会の常設専門部会「音楽と社会フォーラム」の公式ブログです。

ちょっとしたメタル話 その6 ハロウィーンによせて

 震えるような寒い日と比較的暖かい日、かわるがわる訪れる今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか。体調など崩されていませんでしょうか。

 今年も残すところ、あと2か月というところにさしかかってまいりました。今回は、もはやその存在すらお忘れかと思いますが、今年初めての「ちょっとしたメタル話」、「その6」をお送りします。



 街を歩くと、そこはすっかり「ハロウィーン」一色となっております。筆者が子供の頃は、「ハロウィーン」だから仮装(?)をして大騒ぎをする、という習慣はほとんどなかったと記憶しております。筆者を手伝ってくれている―仮装して研究室に現れた―大学4年生と話してみたところ、彼らの子供の頃にもこうしたイベントはなかったということでした。近年急速に(警察が事前に対応を準備するような)「お祭り」として定着したようですが、それにはどのような背景があったのか、気になるところではあります。
 
 毎年この時期に、街やネット上で多く目にするようになったオレンジのカボチャのお面をみると、筆者はやはり、あるバンドのことを思い出してしまいます。筆者の「メタル人生」においても極めて重要な位置を占めるバンド、ハロウィン(HELLOWEEN. 2文字目が“E”に、すなわち“HELL”になっているところがミソ)です。

 ハロウィンは、ドイツ、ハンブルク出身のギター2本のヘヴィメタルバンドです。ジャーマンメタル、そして現在でも多くのバンドが志向しているパワーメタルおよびメロディックスピードメタル創始者とされており、1985年のミニアルバムでのデビュー後、15ものフルアルバムを残しております。それゆえ、ハロウィンの歩みや作品、音楽性等については、すでに多くの情報がネット等で参照できますので、今回は筆者の個人的な体験(些かフィクションも含まれます)について書かせていただければと思います。

 中学生の頃、トップ40モノの心に残るメロディを好んでいた筆者は、ひょんなことからヘヴィメタルという「激しい」音楽の存在を知り、急速に惹かれるようになりました。若かったこともあり、とにかく激しい音、速い曲を追い求め、(当時は情報が少なかったこともあり)日々レコード屋さんに繰り出していました。某所でアクセプト(ACCEPT)の“Fast as a Shark”に出会い、こんなに速い曲(ツーバス連打の曲)が存在し、しかもそれがドイツのバンドの作品であったことに衝撃を受けたことをはっきり記憶しております。ただし、その後はスラッシュメタル(当時、一部では「ゴリバリメタル」と呼ばれていた)の台頭もあって、アメリカのバンド、メタリカMETALLICA)、アンスラックスANTHRAX)、スレイヤー(SLAYER)、エクソダス(EXODUS)等にのめりこんでいきました。

 高校生になった筆者は、ある日某レコード店で、当時最も好きだったメタリカの、待ちに待ったサードアルバム「Master of Puppets」を購入し、一刻も早く聴くべく帰路を急いでおりました。ただし、何気なく、とある場所に寄り道したところ、筆者の心と体を揺るがす音楽が流れており、些か予定が変わってしまいました。そこで流れていたのが、ハロウィンの1stフルアルバム(筆者はセカンドと考えていますが)、「Walls of Jericho」(1985)だったのです。


 
 スピーディーかつヘヴィな怒涛の演奏、その上にゆったりと流れる心に引っかかるメロディの連続に、思わず聴き入ってしまい、しばらくその場を動けませんでした。迷わずお借りして帰宅。その夜は、購入したレコードではなく、お借りした「Walls of Jericho」を何度も聴いたことをよく覚えています(勿論、周知のように「Master of Puppets」がヘヴィメタルの歴史に残る名盤であることは疑いありません。その後愛聴盤となりました!)。
 
 何故そこまでの衝撃を受けたのか。おそらく洋楽に惹かれたきっかけとなった、(もとより好きだった)心に残るような美しいメロディと、当時追い求めていた速さおよび激しさとの融合という、無意識のうちに思い描いていた(当時の)筆者にとっての「理想の音楽」に、初めてめぐりあえたからだと考えています。それはどのような音楽か、とお考えの方、是非「Walls of Jericho」を聴いてみてください(とくにお気に入りは、“Walls of Jericho / Ride the Sky”、“Heavy Metal (is the Law)”)。一般的には、本作に続く「Keeper of the Seven Keys Part 1」(1987)および「Keeper of the Seven Keys Part 2」(1988)、とりわけ後者がハロウィン(初期)の名作とされますが(いずれも必聴です)、個人的には―粗削りではありますが―、「Walls of Jericho」を推したいと思います。

 その後、ハロウィンは、筆者が最も好きなバンドのひとつとなりました。それは、世界の多くの人々も同様であったらしく、世界中で多くのフォロワーが生まれました。これまでに、ハロウィンの曲のカバーを収めたトリビュートアルバムは、数種発表されるに至っています。ハロウィン自体は、メンバーの交代に伴い、少しずつではありますが音楽性を変化させてきたように思います(勿論、初期に通じる曲もあります)。
 
 筆者はその後、ハロウィン、そしてヘヴィメタルだけではなく、さまざまな音楽を気の向くままに幅広く聴いてきました。ただし、今でもつい「あの頃」のハロウィンのような曲、そうした曲を提供するアーティストを探し求めているように感じています。それほどに、ハロウィンを初めて聞いたとき―無意識のうちに思い描いていた「理想の音楽」との出会い―の衝撃は大きかったのだと考えています。みなさんにも、こうした経験があるのではないでしょうか。



 近年定着した「ハロウィーン」のお祭り騒ぎは、毎年筆者に上記のような「あの頃」を思い出せてくれるものとなっています。今年もCDを、いやレコードを引っ張り出し、「Walls of Jericho」を聴くことにしたいと思います。