音楽と社会フォーラムのブログ

政治経済学・経済史学会の常設専門部会「音楽と社会フォーラム」の公式ブログです。

ちょっとしたメタル話 その5 日本大好きイタリアン・メタル―「サムライ・メタル」を事例として―

 寒さの厳しい日が増えてまいりました今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか。

 いよいよ師走に入ってまいりますが、本年は当ブログにおいて一度も「メタル話」を掲載していないことに気がつきました。どなたも待っておられないかと思いますが、「その5」をお届けいたします。「番外編」からおよそ1年が経過してしまいました。


 熱心なメタルファン以外にはあまり知られていませんが、イタリアは日本人の琴線に触れる「クサい」メロディを生み出しているバンドを多く輩出しており、隠れた「名産地」と認識される場合も少なくありません。私など悪い癖で、第二次世界大戦時の同盟国であったという歴史的事実から、こうした音楽的な特質を説明できるだろうか、などと考えてしまうのですが、どうもイタリアの側にも日本発のさまざまなものを好んでいるかのような面がしばしば見いだされます。ただし、今回扱うそれは、イタリア人が日本のHMを好む、といったこととは、些か違うかたちをとっています。

 例えば、以前本ブログでも触れたように、イタリアの某メロディック・パワーメタル・バンドは、日本のアニメの主題歌や超メジャーな某アイドルの、これまた代表曲をメタルバージョンでカバーした作品を発表しております(後者は著作権の問題からか、日本で発売された版では未収録となりましたが…)。

 今回紹介するのは、HOLY MARTYR(ホーリー・マーター)というギター2本の5人組です。1990年代に結成され、これまで2枚のデモ、2枚のEP,3枚のフルアルバムを発表しております。そんな彼らの2011年発表の「INVINCIBLE」を初めて聞いたときの衝撃は強烈なものでした。まずは収録された曲名をあげておきましょう。そのときの衝撃が少し伝わるかと思います。

1. Iwo Jima
2. Invincible
3. Lord of War
4. Ghost Dog
5. The Soul of My Katana
6. Shichinin No Samurai
7. Takeda Shingen
8. Kagemusha
9. Sekigahara
10. Zatoichi

……曲名を見ずに聞き始め、その正統派パワーメタルといえる音にすぐに好感をもち、そのまま5曲目へ。“The Soul of My Katana”は短いインストルメンタルなのですが、(おそらく)“荒城の月”をモチーフにした美しい小曲でした。このように日本のメロディを(少し)取り入れる手法は、以前本ブログでも言及したように、よくあります。その後も力強く勇ましいメロディを特徴としたパワーメタルは続きます。ただ、何か少しづつ違和感(+いやな予感)をおぼえてきました。そして7曲目の冒頭、「運は天にあり、鎧は胸にあり、手柄は足にあり…」という(おそらく日本人による)日本語の掛け声(ナレーション)が耳に入るや否や、それは確信に変わりました。これは長尾景虎の有名な…。おそらく歌詞のところどころに登場する日本語が違和感の原因であったと思われます。思わずジャケットを確認してみると…


(聞く前に見るべきでした……ラストナンバーですかね…)


 HMの歌詞のテーマとして、歴史的な出来事や物語を用いること、あるいはそれらに触れることは一般的であるといってよいと考えます。事例は枚挙にいとまがありません(HOLY MARTYR自身、多くの曲でそうです)。ただ、ここまで日本のそれにこだわっている作品は記憶にありません。よほど日本の歴史そしてそれをテーマとして映画・物語(曲名を見る限り歴史というよりこちらの方がお好みかもしれません)が好きなのでしょうか。そうでなければ書けない歌詞のようにも思います。ただし、本作以外はあまりそうした嗜好は感じられません。バンドのヴィジュアルも、以前はある意味では「一般的」なHMバンドのそれでしたが、少なくとも本作では全員白塗りに「般若」のようなメイクをほどこしております…。ちなみにオープニング、1曲目の小曲“硫黄島”もこうしたテーマであったことはジャケットを確認するまで気付きませんでした。

 こうした強烈なスタイルが無関係とはもはや言い切れませんが、音の素晴らしさもあり、本作は私の愛聴盤となりました。とくにお気に入りは、まさに「天下分け目」の戦いを想起させるドラマチックなスピードナンバー“関が原”です(“Tokugawa” ...“Mitsunari”...)。虚実交えた歴史の展開過程を辿るかのような“武田信玄”から“影武者”への流れも泣かせます(“Nagashino...”とか出てきます)。是非ご一聴をお勧めします(日本盤も発売されています!)。勇ましいメロディ満載です。なお、2015年11月29日現在、本作が彼らの残した最後の作品となっております…


 今回は、日本の歴史(物語)大好きなイタリアのHMバンドを紹介しましたが、同じく同盟国であったドイツにもこうしたスタイル、嗜好を表に出したバンド、作品はあるのでしょうか(AORでは、複数のアルバムを残すTokyoなるバンドが存在します。“Keiko”という曲は名曲ではありますが...)…。師走前のお忙しい時期に、失礼いたしました。