音楽と社会フォーラムのブログ

政治経済学・経済史学会の常設専門部会「音楽と社会フォーラム」の公式ブログです。

アナログレコードとCDとストリーミング(サブスク)と

 すっかり暖かくなった今日頃ごろ、みなさまいかがおすごしでしょうか。

 

 先日ダウンジャケットを着て外出しましたら、暑くて…なんと半そでの若者もちらほら。季節の移り変わりはいつも間にかやってきますね。そしてすぐに暑い、暑いという日々が…

 

 この3月になって音楽産業に関する記事が立て続けに入ってきています。まずはいくつかご紹介します。

 

amass.jp

[引用始まり]

 英国レコード会社による業界団体、英国レコード産業協会 (BPI)によると、英国ではレコード産業の総収入が2022年の1年間で前年比4.7%増の13億2000万ポンドに達しました。8年連続の成長です。

 2022年の成長はストリーミング収入の増加によって再び促進され、ストリーミング収入は前年比6.3%増の8億8500万ポンドとなりました。2021年の66.2%から増加し、業界全体収入の67.2%を占めるようになりました。

 2022年、フィジカル(CD、アナログレコード、カセットテープほか)全体の収入は10.5%減の2億1570万ポンドでしたが、アナログレコードでのアルバム購入による収入は3.1%増の1億1950万ポンドとなり、CDの収入が23.7%減少したことを相殺するのに貢献しました。現在、レコードは、フィジカル・フォーマットの音楽から得られる収入の半分以上(55%)を占めており、BPIは、レコードが1987年以来初めてCDを上回る収入を上げたことを公式に確認しています。

 ストリーミング収入は8億8,500万ポンド(6.3%増)で、主にAmazonAppleSpotifyYouTubeなどの有料サブスクリプションによるもので4.8%増の7億6,280万ポンド(2021年の7億2,760万ポンドから増加)です。広告収入によるストリーミングは、サブスクリプションの10分の1以下しかありませんが、それでも2022年には5分の1以上(22.3%)増加して6250万ポンド(5110万ポンドから増加)になりました。

[引用終わり]

 

amass.jp[引用始まり]

   全米レコード協会(RIAA)は、2022年の米レコード音楽産業についての新しいレポートを発表。それによると、米国では2022年、アナログレコードの販売枚数がCDを上回りました。これは1987年以来初めてです。CDの販売枚数は2021年の4700万枚から28%減少して3300万枚、アナログ盤は2021年の4000万枚から3%増加して4100万枚でした。2022年のアナログ盤の収入は17%増の12億ドルで、フィジカル・フォーマットの売上の71%を占めています。CDの収入は18%減の4億8300万ドルでした。

[中略]

 新しいレポートによると、米国のレコード音楽産業は、2022年に史上最高の159億ドルに達し、7年連続の成長を達成しました。ストリーミングの全体的な成長は近年横ばいになっていますが、米国での有料料サブスクリプションの契約数は2021年の8400万人から9200万人に増加し、業界全体の売上の84%を占めています。

[引用終わり](原文ママ

 

 売り上げの面でのアナログレコードとCDの逆転は、1987年以来、35年ぶりということです。この35年前とは、まさにCDが台頭してきたころですね! 懐かしい… それ以来、初めての「政権交代」(笑)とは、驚きです。

 

 ストリーミング(サブスク)の台頭は、(なんとなく)筆者でもわかりますが、CDの凋落ぶり、アナログレコードの復権はどのように理解すべきでしょうか。きっと詳しい考察をされておられる方がいると思いますので、機会があればより詳しく学びたいと考えていますが、以下の記事には、この問いに対するいくつかの答えが記されています。

 

www.nikkei.com

[引用始まり]

 【ニューヨーク=弓真名】米国でアナログレコードの人気が沸騰している。2022年の販売枚数は4100万枚と1987年以来初めてCDを上回った。ストリーミングサービスが主流となるなかで、懐かしさや雰囲気を追求する若者のあいだでアナログとデジタルを組み合わせた音楽鑑賞のスタイルが確立されつつある。

 全米レコード協会(RIAA)が9日に公表した資料によると、22年のレコードの販売枚数は前年比3%増の4100万枚と、CDの3300万枚を上回った。レコードやCDなどを含む「フィジカルフォーマット部門」の売上高は約17億ドル(約2300億円)で、前年比4%増だった。なかでも部門売上高全体の7割を占めたレコードの売上高は12億ドルと17%増えた。

 アナログレコードは、70年代に音楽メディアとして販売数の過半を占めていたが、カセットテープやCDの台頭によって長年低迷していた。2000年代後半からじわじわと人気を取り戻し、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って家にいる時間が増えた21年に急伸した。

 レコード需要が復活している背景には、若者を中心とした人気が高まっていることもある。米調査会社ルミネートによると、1990年代半ば以降に生まれた「Z世代」は平均的な個人と比べてレコードを購入する傾向が強いという。

 米ニューヨーク市在住のサイモンさん(24)は「CDは商業的で安っぽい印象だが、レコードは懐かしさやぜいたくな感じがする」と話す。普段は便利なストリーミングサービスを使いつつ、週に数回は「外食や旅行をするような気持ち」でレコードの音楽を楽しむという。

 RIAAによると、スウェーデン音楽配信大手スポティファイなどの有料ストリーミングサービスによる収入が、米音楽業界における売上高の8割超を支えている。そのなかでレコードの売り上げも伸び続けており、22年には16年連続の増収となった。配信サービスの普及で各個人が音楽をより手軽に楽しめるようになったいま、アナログとデジタルを掛け合わせた新しい鑑賞の形が広がっている。

[引用終わり]

 

 

 「CDは商業的で安っぽい印象だが、レコードは懐かしさやぜいたくな感じがする」。「懐かしさや雰囲気を追求する若者のあいだでアナログとデジタルを組み合わせた音楽鑑賞のスタイルが確立されつつある」。なるほど、若い人たちは、ひとつの「贅沢」な時間としてアナログレコードを楽しむということでしょうか。それとも何か「おしゃれ」やファッション(古い表現で申し訳ありません)として嗜むのでしょうか。

 

 そういえばテレビでアナログレコードジャケットを飾っているおしゃれなお店をみたことがります。なんなら、筆者も実家に埋まる数万枚のレコード、お貸ししましょうか?(不要と思いますが…)

 

 中年である筆者は、アナログレコードからCDへと音楽を提供するメディアの中心が移行していった時期(35年前頃です!)を10代で経験しました。自分自身、アナログレコードのコレクターだったので(10代のしょぼいコレクターですが)、寂しい思いがしたことを覚えてます(当時はCDが高かったです!プレイヤーも!………今、CD(専用)プレイヤーって販売しているでしょうか?)。

 

 その際、CDに比してアナログレコードの方が音が良い(深い?だったでしょうか)、という点が盛んに議論されたことを記憶しています。筆者の所有する貧弱な音響機材では、音の違いは全く分かりませんでしたが…すいません。

 

 それよりなにより、CDにはアナログレコードの最大の欠点である(傷などを伴う)ノイズ、(とくに最初の)プチプチ音がないことに感動したことを覚えています(それらを含めアナログレコードの魅力と考える方もおられると思いますが)。

 

 そして、アナログに比べて、扱いが簡単で何より持ち運びが楽なこと(カバンに入る)! これらによりすっかりCDばかり聞く(買う)ようになった、ポリシーも何もない若造でした(若造に戻りたい気もしますが)。

 

 このように筆者は、アナログレコードとCDの最大の違いを、その「楽さ」「気軽さ」(「便利さ」)に感じており、前者から後者への移行も致し方ないと考えるようになりました。

 

 この点に従えば、CDよりさらに、否はるかに「楽」にそして「気軽」に音楽に接することができるストリーミング(サブスク)の台頭は、筆者のような者にも大いに理解できるという次第です。

 

 では、なぜCDは凋落し、アナログが復権したのか。筆者が自分の経験をさかのぼり現在思いつくことは、アナログと比較した場合のCDの(最大の)特徴である「楽さ」「気軽さ」において、CDをはるかに上回る「方法」が登場・定着したこと、フィジカル(フォーマット)の購入者は「楽さ」「気軽さ」を求めていない、例えば、筆者がかつてアナログレコードを集めていたころに覚えたような所有欲や収集欲のようなものに動かされているのではないか、という点等々です。

 

 さらに上記の記事をふまえれば、「楽」「便利」なデジタル音源は,CD→ストリーミング(サブスク)と移り変わり、アナログは別、と理解できるような気がしますが、いかがでしょうか。

 

 音楽を届けるメディアも、季節ほどではありませんが、いつのまにか(気が付かないうちに)「変わって」いくようです。ただ、上記2つの記事に共通していますように、音楽市場が活況であることは、本当に喜ばしいことですが。「楽」「気軽」「便利」というとあまり良い印象を持たれない方もおられるかもしれませんが、音楽(レコード)〈産業〉においては極めて重要な気がする、暖かい3月です。